老化の研究(やっぱり何も食べないのがいいらしい)

ほぼ60年前、培養で分裂するヒト細胞の限られた能力に関する最初の正式な説明が発表されました71,72。この現象は現在、細胞老化と呼ばれるより一般的な現象の例であることが知られています。老化細胞は、細胞増殖の停止、アポトーシスへの耐性、および複雑な老化に関連する分泌表現型という3つの主要な特徴によって特徴付けられます73。細胞増殖を制限する老化は、主に、テロメラーゼの非存在下で繰り返されるDNA複製に起因する短い機能不全のテロメアによって引き起こされます74。機能不全のテロメアは持続的なDNA損傷応答を引き起こし、それが次に細胞周期の停止75と、老化に関連する分泌表現型76に関連する炎症誘発性因子の発現を誘導します。同様に、老化を誘発する癌遺伝子の少なくともいくつかは、複製ストレスとそれに続くDNA損傷を引き起こすことによってそうします77,78。ただし、他のストレッサーは、エピゲノムの摂動79ミトコンドリアの機能障害80など、DNA損傷応答なしに細胞を老化させる可能性があります。 老化細胞は、複数の種の老化した組織や病気の組織に多く含まれています81。細胞培養研究は、老化細胞が、主に老化関連分泌表現型の細胞非自律的効果を通じて、さまざまな老化表現型および疾患の特徴を刺激できることを示した82。老化細胞を選択的に排除できる2つのトランスジェニックマウスモデルの開発により、老化細胞がinvivoで多くの加齢に伴う表現型および病状に因果関係を持つ可能性があるという考えが確認されました83,84。両方のモデルは、老化細胞が、少なくともマウスにおいて、多数の加齢に伴う病状のドライバーであることを示すために使用されてきました。これらの病状には、アルツハイマー85およびパーキンソン病86、アテローム動脈硬化87、心血管機能障害88(特定の遺伝子毒性化学療法によって引き起こされる心血管障害89を含む)、腫瘍進行88,89、造血および骨格筋幹細胞機能の喪失90、非アルコール性脂肪性肝疾患91、肺が含まれます。線維症92、骨関節炎93および骨粗鬆症94。 これは、マウス導入遺伝子の作用と同様に老化細胞を排除することができ、したがってヒトで使用するために潜在的に翻訳可能である化合物を同定できるかどうかという問題につながる。このアプローチにより、老化細胞除去薬と呼ばれる新しいクラスの薬剤が特定され、急速に拡大しています90,95,96,97,98,99。多くの老化細胞除去薬がマウスやヒトの細胞や組織でテストされており、有望な結果が得られています。ただし、臨床試験は最近開始されたばかりであり、したがって、これらの薬がヒトに対して安全で有効であるかどうかはまだ決定されていません



老化細胞を選択的に死滅させる薬剤候補を同定

https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200805.html

大阪大学微生物病研究所の原英二教授(兼:大阪大学免疫学フロンティア研究センター)、脇田将裕特任助教らを中心とする研究グループは老化細胞を選択的に死滅させる薬剤候補を見出しました。本研究成果は老化細胞がなぜ、加齢とともに体内に蓄積するのかを明らかにすると同時に、生体にとって有害な老化細胞を体内から除去することでがんを含めた様々な加齢性疾患の発症を遅延させる治療薬の開発へと発展する可能性が期待されるものです。本研究成果は令和2422日付けで英国の科学雑誌Nature Communications』にオンライン掲載されました。

背景

正常な細胞は発がんの危険性がある修復不可能なDNA損傷が生じると、アポトーシス(注1を起こして死滅するか、細胞老化(注2を起こして細胞周期の進行を不可逆的に停止することが知られています。これらの現象は、異常細胞の増殖を防ぐ重要ながん抑制機構として働いていると考えられてきました。しかし、アポトーシスとは異なり、細胞老化を起こした細胞(以下、「老化細胞」と呼ぶ)は生存可能なため、加齢とともに老化細胞が体内に蓄積していくことが分かっています。さらに体内に蓄積した老化細胞は炎症性サイトカインやケモカインなどの炎症性物質を分泌するSASP(注3と呼ばれる現象を引き起こすことで慢性炎症を惹起し、がんを含めた様々な炎症性疾患の発症を促進することがわかってきました。また、遺伝子改変マウスを用いて老化細胞を死滅させると、がんを含めた加齢性疾患の発症率が著しく低下し、加齢に伴う生体機能の低下もある程度遅延することが報告されるようになってきました。このため、体内に蓄積した老化細胞を選択的に死滅させる薬剤(セノリティックドラッグ)を開発することが出来れば、がんを含めた加齢性疾患の発症を抑え、健康寿命の延伸につながるのではないかと期待されています。






     パマイシンRapamycin)またはシロリムスSirolimus国際一般名INN/JAN)は、微生物Streptomyces hygroscopicus英語版によって生産されるマクロライド化合物の一つである[4][5]移植臓器拒絶予防のため、リンパ脈管筋腫症の治療のために医学分野で使われている。ヒトにおいて免疫抑制機能を持ち、腎臓移植の拒絶の予防において特に有用である。インターロイキン-2IL-2)の産生を低下させることによってT細胞およびB細胞の活性化を阻害する。冠動脈ステント英語版のコーティング剤としても使われている。

       ラパマイシンは1972年にSuren Sehgalらによって、イースター島の土壌から発見された放線菌Streptomyces hygroscopicusから初めて単離され[6][7]イースター島ポリネシア語名の「ラパ・ヌイ」のラパと、「菌類から生じた抗生物質」を意味する接尾語のマイシンとを組み合わせてラパマイシンと名付けられた[5]。当初は抗真菌薬として開発されていた。しかしながら、mTOR阻害能英語版によって強力な免疫抑制作用と抗増殖作用を示すことが発見され、この目的では使用されなくなった。19999月にアメリカ食品医薬品局によって認可された。商品名はラパリムス錠1 mgノーベルファーマ)。日本国外ではラパミューン(Rapamune)としてファイザー(以前はワイス)から販売されている。

  がん治療作用

ラパマイシンの抗増殖効果として、PI3K/Akt/mTOR経路の阻害があげられる(mTOR=哺乳類ラパマイシン標的蛋白質/mammalian target of rapamycin)。また血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を抑制して、血管内皮細胞の増殖や管腔形成を抑えるとされる。最近では、腎移植を行う予定の患者にラパマイシンを投与したところ、カポジ肉腫の進行が抑制されたことが確認されている。また、ドキソルビシンとラパマイシンとを併用したマウスに対する治療では、AKT陽性の悪性リンパ腫が不活性化されたことが示されている。

  パノビノスタットメイヨー・クリニックによる研究で、ラパマイシンと共に使用することで、相乗効果的に膵癌細胞を不活性化させる事が判明している。研究では、この組み合わせにより、培養された膵癌細胞の内、最大で65%が不活性化されると判明した[10]。なおラパマイシン誘導体にテムシロリムス(Temsirolimus/商品名トーリセル・腎細胞がん治療薬)がある。

  寿命延長作用

    2009年の研究では、ラパマイシンを与えられたマウスは与えられる前に比べて寿命が28-38%伸長し、最大寿命が全体で9-14%伸長した[16][17]。同研究の注意書きによると、実験は生後20ヶ月の成熟したマウス(ヒトに換算すれば60歳前後)で行われた。これは、一般的な延命策と違って、すでに高齢化しているヒトの寿命を伸長させる可能性を示唆している。