N 極・ S 極だけをもつ磁石・磁気モノポールの発見

 
 
准教授多々良源と日本学術振興会特別研究員竹内祥人は、N極またはS極だけをもつ磁石(磁気モノポール)を、普通の磁石と白金を組み合わせた簡単な構造で作ることができることを理論的に示しました。
モノポールを磁石と白金の接合という簡単な構造で作ることができれば、情報機器中でN極だけをもつ磁石を作ることが可能になり、資源の埋蔵に問題のあるレアアース金属を利用せずに高密度デバイスを作成できる可能性があります。またモノポールを操作し流れを作れば、磁場と電場を対等に操作することができるようになり、これまでの動作原理を超えた新しい情報伝達や情報記録が可能になると期待されます。
自然界の磁石はすべてN極とS極からできており、それらを分離してN極またはS極だけからなるモノポールを作ることは通常不可能と考えられています。ただし理論的には、モノポールの存在の可能性があることが1931年にDiracにより指摘されていました。その後の研究により、モノポールは宇宙のビッグバンによる生成の直後約0.1ナノ秒後につくられた可能性が明らかにされていますが、これまで行われた大規模な観測では宇宙初期のモノポールは見つかっていません。
今回多々良、竹内は、物質中では対称性の法則が真空や空気中と異なることに着目し、宇宙初期
のような超高エネルギーを用いなくてもモノポールの生成が可能であることを示しました。この際
鍵となるのが白金のもつ強い量子力学及び相対性理論に基づく効果で、これが普通の磁石を構成し
ているスピンの運動を電子の運動に変換するはたらきをしています。
このために磁石の向きを変化させると電子の運動がおき、このときにモノポ
ールがつくられます。
つまり白金のもつ相対論効果は、スピンの住む世界と電子や電荷の住む世界をつなぐ役割を果たし
ており、これによりモノポールの生成が起きます
 
 
磁石をどれほど小さくしていってもN極とS極を引き離す事はできない。この例外となるN極もしくはS極単体を構成する素粒子である磁気モノポールは、ディラックが1931年にその存在可能性を理論的に示して以来、数多くの研究者たちがこの探索に身を投じてきた。しかし、残念ながら今日に至るまで自然界にそのような粒子の存在は確認されていない。
最近竹内らは、白金のような相対論的効果であるスピン軌道相互作用が強い物質と、磁石とを接
合させた試料を用いる事で、磁気モノポールが現れる新しい機構を発見した。ここの本質的な役割
を担っているスピン軌道相互作用は、磁石を構成する最小単位の磁石である電子スピンの運動と、
電子自身の運動とを互いに結び付ける働きをする。竹内らは、それにより磁石中の磁化がコマのよ
うに歳差運動すると電子の流れが誘起され、この過程で磁気モノポールが生成される事を理論的に
明らかにした。
電子のように電気の源となる電荷を持ち自由に動き回る粒子が存在するのだから、磁気の源である磁荷を持った粒子も同じように存在するはず、と考える事は至極当たり前である。しかし、重力以外の自然界に存在する根源的な力を統一させる大統一理論では、磁気モノポールの生成には宇宙誕生初期に相当する巨大なエネルギーが必要である事が示されており、当然ながら現在地球上でそれを生み出す術はない。竹内らの発見は、磁石中では重い元素が持っている相対論的な効果を用いる事で、実験室で磁気モノポールを生成する事が可能となる事を明らかにしたもので、物質中の自
然法則を大きく発展させた。
磁気モノポールは、N極とS極が完全に分離しているために磁気的な情報をより遠くまで伝える
ことができ、また全く新しい機構で磁気と電気をつなぐ役割を果たすため、科学技術への応用も期
待される。実際、現在の磁気記録では電流が流れるとその周りに磁気的な力が誘起されるという
19世紀に発見されたアンペールの法則が利用されているが、磁気モノポールを利用すれば電気的な力
を同じ様に磁気モノポールの流れから作る事ができる。つまり、電磁気学の完成した
19世紀以来初めて我々は電気と磁気とを対等に扱う事が可能になるのである。磁気モノポ
ールを活用したこの技術は、既存の方法では近い将来限界をむかえるデバイスの高密度集積化や省エネルギー化、新た
な情報通信技術の開発等に関する活路を切り開く可能性を秘めている