吸血鬼はなぜ血を吸うのか(輸血による若返り)

老化を制御する液性因子

Humoralfactorsregulatingagingprocess

新村 健

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_53_1_10.pdf

 

 

1950年代後半から1960年代にかけて,parabiosis(並体結合)といった実験が盛んに行われた.これは異なった個体を皮下レベルで手術的に縫合することで,両個体の循環体液を混合して,共有させるといった手技である.老齢ラットと若齢ラットの heterochronic parabiosis 研究から,若齢ラットの血中には老齢ラットを若返らせ,寿命を延長させうる因子が存在することが推測された.さらに抗老化療法

であるカロリー制限を実施したラットと食事自由摂取のラットとの parabiosis 実験から,カロリー制限の好ましい効果が液性因子によって仲介されるとも推測された.parabiosis による加齢臓器の若返り効果は,骨格筋,軟骨,肝臓,中枢神経系,心臓と,さまざまな臓器で確認されてきた.さらに動物実験では,輸血や血液成分交換による若返り効果も数多く報告されている.このような事実から,血液に含まれる何らかの成分が,個体老化に大きな影響をおよぼしていることは,ほぼ確実と考えられている.

近年,このような老化を促進あるいは抑制する液性因子として,補体 C1qGrowth differentiation factor 11chemokine ligand 11β2-microglobulin などが相次いで報告された.はたして我々は,“Fountainof youth”をついに見つけたのであろうか?本稿ではこれらの液性因子の働きと,他の候補として,アンドロゲン,Klotho タンパク,分泌型 nicotinamide phosphoribosyltransferasenon-coding RNA について紹介したい