零バイアスコンダクタンス〜無電圧電流〜(フリーエナジー?)
超伝導状態では、多数の電子対が同一の量子状態にあって、位相を揃えて運動する。そのために、全体の波動関数を巨視的な位相で記述できる。超伝導体のもつこの位相が、どのような新しい物理現象において見られるのかを理論的に解明することが、私の主な研究課題であった。超伝導の持つ位相干渉、さらにはフェルミ・ディラック統計性が支配する電子の対称性を軸に研究を展開することで、実に多くの研究に携わることができた。
(1)異方的超伝導体界面における量子干渉効果
(1)-1 異方的超伝導体のトンネル効果
超伝導体・常伝導体接合におけるトンネル分光は、超伝導体のエネルギーギャップの大きさを測る重要なプローブとして知られてきた。従来型s波超伝導体・常伝導体接合におけるトンネル分光の理論は存在していたが、d波型超伝導体のような異方的超伝導体のトンネル分光が何を意味するのかは未解明であった。私は、異方的超伝導体・常伝導体接合における微分コンダクタンスの一般理論を構築し、異方的超伝導体のトンネル分光には、内部位相効果が現れることを示した[1,2]。この理論を銅酸化物超伝導体に適応して、銅酸化物超伝導体のトンネル効果の実験でしばしば観測されている零バイアス電圧におけるコンダクタンスピークの起源を解明した。その結果、零バイアスコンダクタンスピークの起源は、界面に形成されるミッドギャップアンドレーエフ共鳴状態(MARS)であることを明らかにした。この研究は、強磁性体と異方的超伝導体との接合[3]あるいはスピン3重項p波超伝導体の理論[4]に拡張された。さらに、FFLO状態のトンネル効果の理論、空間反転対称性の破れた超伝導体のトンネル効果の理論へと発展した[5,6,7]。現在までに、零バイアスコンダクタンスピークは多くの異方的超伝導体で観測され、数多くの銅酸化物高温超電導体(La系、Y系、Bi系、Pr系)、κ-(BEDT-TFF)2X、UBe13、CeCoIn5、Sr2RuO4、 PrOs4Sb12 超伝導トポロジカル絶縁体CuxBi2Se3 において観測されている。
(1)-2 異方的超伝導体のジョセフソン効果
銅酸化物超伝導体のd波対称性を考慮した計算を世界に先駆けて行い[8]、従来の s 波超伝導体接合には存在しない性質を明らかにした。ミッドギャップアンドレーエフ束縛状態はジョセフソン電流に重大な影響を与える。接合の配向によっては、ジョセフソン電流は非単調な温度依存性を示すことを予想した[9,10]。これは、温度の低下によって 0 接合からπ接合に変化することに対応する。ここで 0 接合とは接合の自由エネルギーがφ=0で最小になる接合で、π接合は φ=π で最小になる接合である。この理論発表から 5 年後の2001 年にドイツ、イエナの Ilichev らにより、非単調なジョセフソン電流の温度依存性が確認された。さらに最近、イタリア、ナポリの Testa らは、より高い精度でこれを確認している。またジョセフソン電流の位相差依存性にも新しいsin(2φ) などの高調波の成分が強められ[9,10]、その結果、基底状態で自発的に縮退した量子2準位系が現れることを示した。