ワイル半金属は重力と関係があるらしい

カイラル磁気効果を包含する電磁気学と輸送現象
 
3+1次元の相対論的フェルミオン系において左手型と右手型のフェルミオン数に違いがあると、場の理論におけるカイラルアノマリーの帰結として、磁場に比例した電流が駆動されることが予言されている。この効果はカイラル磁気効果と呼ばれ、高エネルギー物理学分野で研究が行われてきた。しかし近年のトポロジカル半金属研究の進展により、空間反転対称性の破れたワイル半金属を用いることで、同様の効果を物質系で実現できる可能性が注目を集めている。
我々は今回、カイラル磁気効果を含む物質中のマクスウェル方程式に基いて、カイラル磁気効果を示す物質の輸送現象および交流磁場応答を議論した。そして、線形応答理論からの素朴な期待に反する種々の非自明な応答が引き起こされることを理論的に明らかにした。我々の構成した摂動解は、カイラル磁気効果が輸送現象に対して支配的な場合に以下の二つの特異な輸送現象を予言する。
(1)
外部磁場が存在しない場合でも、電流輸送はカイラル磁気効果の影響を強く受け、結果的に物質パラメータに依存しない普遍的なアドミッタンスが実現される。
(2)
交流外部磁場によって誘起される電流はある条件下で共鳴的に増大し、それは試料形状に依存した定在波の形成に由来する。
我々の結果は、カイラル磁気効果を示す系の輸送現象においては、物質内部の電磁気学との整合性が本質的な役割を果たすことを示唆しており、実験手法の提案や観測値の理論的解釈、そして将来のエレクトロニクスへの応用に向けた研究に新たな指針と与えるものである。
 
 
 
重力カイラル量子異常とスピンカイラル磁気効果
 
 
 
 
古典論では質量のないDirac fermionはカイラル対称性をもち,軸性流は保存する.しかしながら背景ゲージ場のある量子論では軸性流は保存しない.これはカイラル量子異常と呼ばれており,経路積分の測度がカイラル変換に対して不変でないために起こる[1].WeylfermionのLagrangianはDirac fermionのものと電磁場のθ項を加えたものとなり,より物理的な帰結としては,時間反転または空間反転対称性の破れたWeyl半金属では異常Hall効果またはカイラル磁気効果が起こることが期待される[2].このうちカイラル磁気効果は磁場に平行に電流が流れる非常に興味深い現象であるが,一様磁場中の格子系では起こらないことが示されている[3].
カイラル量子異常は背景重力場がある場合についても知られており,重力カイラル量子異常と呼ばれている[1].この場合,Weyl fermionのLagrangianはDirac fermionのものとRiemann曲率のθ項を加えたものとなる.Riemann曲率が存在する場合,ベクトルは平行移動によって回転する.スピンもまた平行移動によって回転するが,これをスピンがSU(2)のAharonov-Bohm位相を獲得したと解釈することもでき,従ってRiemann曲率はSU(2)の磁場であるといえる.物性物理においてRiemann曲率は結晶欠陥のひとつである回位で実現される.
本講演では新たなカイラル磁気効果であるスピンカイラル磁気効果を提案する.重力カイラル量子異常によれば,空間反転対称性のない
Weyl半金属では回位線に沿ってスピン流が流れる.回位を記述するRiemann曲率は非一様であるため,格子系の禁止定理[3]とは矛盾しない[4]
.このスピン流は平衡流であり,輸送測定では観測されない.代わりにスピンカイラル磁気効果によって修正される熱力学的性質について議論したい