ディラック粒子(半金属系)

半金属系は伝導帯と価電子帯の間に、ハミルトニアン
H= ±vF(pxx+pyy+pzz) によって特徴付けられる、縮退の無い線形分散
をもつ。ここでvFはフェルミ速度、(x,y,z) はパウリ行列である。バンドが交差する点 (p=0) はブリリュアン域に複数存在し、ワイルノードと呼ばれる。
初期の研究では空間反転対称性を破ったワイル半金属状態が理論的に提案され[3]、最近実験によって検証された[4]。一方、時間反転対称性を破るワイル半金属はイリジウム酸化物[5]、磁気ドープしたトポロジカル絶縁体[6,7]
などで理論的に実現が提案されている。特に時間反転対称性を破るワイル半金属は、異常ホール効果に代表される、波数空間のトポロジーに起因する現象の実現が予想され、今後の研究の発展が期待できるテーマである。本稿では最近我々のグループで明らかにしたスピン磁化と電荷自由度が非自明に絡みあう現象として電荷誘起スピントルクの理論的提案について紹介する。
磁性ワイル半金属を実現すると提案されている系で最もシンプルと言えるのは、トポロジカル絶縁体に磁性不純物をドープした系である。例えば Bi2Se3やBi2(SexTe1-x)3
などに Cr や Mn などの磁性元素がドープされると、スピン軌道相互作用が弱まりバルクギャップが消失する領域が存在する。非磁性でかつ時間反転対称性と空間反転対称性を持つ場合は、ギャップレス線形分散が二重縮退しており、ディラック半金属と呼ばれる。一方、低温で磁性不純物の局在スピンが秩序化して強磁性状態になるとバンド縮退が解け、ワイル半金属が実現する。
Bi2Se3を母物質にした Mn をドープした場合の温度・ギャップ相図を示す[7]
。実験的には Cr をドープした Bi2-yCry(SexTe1-x)3においてギャップの消失および強磁性秩序が観測されている[8]

2.異常ホール効果
スピン軌道相互作用および強磁性秩序を有する事からこの系ではゼロ磁場下におけるホール効果、すなわ
ち異常ホール効果、が生じる事が期待される。実際、2つのワイルノードを有する系に対し、ベリー曲率を計算すると、2つのワイルノー
は、波数空間の中で、プラスおよびマイナスの「磁荷」をもった磁気モノポールの構造を有する 。
これらを波数空間で積分したものは異常ホール伝導度に対応する[1,9]。電場を印加すると、電場と磁化に垂
直な電流成分が発生する。一方で、磁場を印加した場合には磁化と平行(反平行)
な成分が電荷密度を生成する。

最近我々は異常ホール効果が生じる強磁性体の平衡状態における電磁応答を記述する熱力学ポテンシャル:

 

 

3.電荷誘起スピントルク
熱力学ポテンシャル  は局所磁化Mとそれに共役な有効磁場Beffの結合項と見なす事もできる。このことは静電ポテンシャルの変化によって磁化の方向ベクトルの向きをスイッチすることが可能である事を示唆する。実際ゼーマン項から得られるトルクがと書けるように、電荷誘起スピントルクが発生する。

実際にはゼーマン項や、電荷密度AHEの発生による静電エネルギー項、磁気異方性項なども存在する。

 

 

野村 健太郎 / 東北大学金属材料研究所 准教授 / 研究分担 C01